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破産手続開始後の破産者の財産管理
破産手続は、破産申立人の財産を換価(財産物を金銭に換える)して債権者に弁済するという手続きですので、破産申立人の主要な財産は原則、裁判所から管理されることになります
(具体的に裁判所が選任した破産管財人が事実上管理・処分することになります)
その(破産者の有する)財産の集合体を「破産財団」と言います。
換価されて債権者に弁済・配当されたり、換価処分できない財産は破産者に戻されることがあります。
以上のように破産した人は、原則保有する財産を自分で管理・処分することができなくなります。
しかし破産者の保有する全ての財産をとりあげてしまうと破産者は生活ができなくなります。
よって、個人が破産する場合は、生活のために必要な財産については、上記の制度の例外として破産者が管理処分することができます。
この破産者が保有を許された財産のことを「自由財産」といいます。
自由財産となる財産
1 99万円以下の現金
民事執行法131条3号で定められている規定の金額に2分の3を乗じた額の現金は自由財産とされています。(破産法34条3項1号)
民事執行法131条3号 標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭政令というのは「民事執行法施行令」のことで、「政令で定める金額」とは同令第1条で「66万円」と定められています。
66万円に3/2を乗じると99万円となります。
よって99万円までの現金は自由財産として破産者が管理処分できます。
現金以外の預貯金は自由財産には含まれません。
例:破産者が以下の財産を保有した場合
現金32万円、
預貯金(銀行口座に保有する残高)30万円、
有価証券30万円相当
現金の32万円しか自由財産とならない
破産法34条3項1号
民事執行法第百三十一条第三号に規定する額に二分の三を乗じた額の金銭
2 差押え禁止財産
(1)民事執行法131条で差押が禁止されている動産(破産法34条3項2号)
民事執行法131条1項
債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
ただし民事執行法132条1項により裁判所が差押を許可したり、破産手続き開始後に差押ができるようになったものを除く(破産法34条3項2号但し書き)
(2)給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に準じるものの4分の3に相当する部分 (民事執行法152条1項2号)
(3)債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権(年金・生活保護受給金等)の4分の3に相当する部分(民事執行法152条1項1号)
3 その他の自由財産
(1)自由財産の拡張が認められた財産
「自由財産の拡張」とは、文字通り自由財産の範囲を広げることです。
裁判所が破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた差押え禁止財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、自由財産の範囲を広げることができます。(破産法34条4項)
拡張された自由財産も勿論、破産者の自由財産となります。
(2)
破産財団からの放棄
財産破産者の財産は、原則、換価して債権者に弁済・配当されますが、財産によっては換価できないもの、また換価できても換価するのに費用がかさみ、財産自体の価値を超える等、換価できない財産があります。
その場合、破産管財人(破産財団の財産を管理処分する人)の判断により破産者に該当財産を戻す場合もあります。
(破産財団からの放棄といいます)(破産法78条2項)
その放棄された財産も自由財産となります。
(3) 裁判所で認められている自由財産
破産法ほかの関連法で具体的に定められてなくても、裁判所の運用基準(換価基準)で自由財産と認められているものがあります。
以下は、東京地裁の破産運用基準(換価基準)で認められている自由財産の一例です。
(裁判所により換価基準は異なる場合が結構ありますのでご注意ください)
- 残高が20万円未満の預貯金
- 処分価格の見込み額が20万円未満の自動車
- 退職金のうち支給見込み額の8分の7相当額
- 家財道具
- 20万円未満の保険解約返戻金
※
上記の裁判所の換価基準は自由財産拡張の申立の基準となります。
(自由財産拡張についてはQ10 をご覧ください)
上記の自由財産については破産者に管理処分が許されるので、最低限度の生活はできるような配慮がされています。
破産手続き終了後の破産者の財産
破産手続終了後については破産者の財産に対して制約は課せられないので、自己の財産は自由に管理処分できるようになります。
破産者に財産がない場合の破産手続
破産者に一定以上の財産がない場合上記で説明した「破産者の財産」について裁判所が管理処分する場合の破産事件を「管財事件」といいます。
しかし、一定水準以上の財産を破産者が保有していない場合は、破産手続が廃止となり終了します。
破産手続は、上記でも説明したように、破産者の財産を換価して債権者に弁済配当することが原則となりますが、破産者に債権者に配当すべき財産がない場合(破産手続費用を支払う費用がない場合)は、廃止となります。
破産者の財産を調査して財産が無かった場合に廃止されるのが「異時廃止」事件といいます。
また破産手続開始の時点で調査をする以前に破産者に財産がないことが明らかである場合は破産手続開始と同時に廃止となり、「同時廃止」事件といいます。
(破産法216条1項)
破産法216条1項
裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない。
廃止事件の場合でも破産者の有する財産に制約は課せられないので、上記で説明した「自由財産」制度の趣旨と同様に最低限度の生活をできるようになります。